有限責任事業組合の設立
歴史上無い新しい事業制度
従来日本では事業組織制度として2種類のものがありました。一つめは株式会社(有限会社)のことで、お金を出資するだけの株主と、会社を経営する役員(取締役)という人が別々にいて、株主はお金は出しますが会社の負債責任は出資金額までしか負いませんよ、経営は役員に完全に任せてあるので私は出資の配当(リターン)しかもらう気がないんですよという制度です。もう一つは合資会社や合名会社の事で、お金も出して自分も経営もする人の集まりのことです。出資者と経営者が同じ人で会社が負債を負いますと全額その人たちが私財を投じて責任を持ちますよ(無限責任)といういささか厳しい制度です。
しかし、意外にも出資者と経営者が同じ人の集まりで事業体の負債は出資額までしか負わないというものは存在しなかったのです。 そのため、お金も出して自分で経営もやってしまう人々の集まりを有限責任(事業体の負債を出資額まで責任を取る)にした組織の法律制度の確立が急務となったのです。そこで日本には今まで存在しなかった有限責任事業組合制度が新時代を担う新しい事業組織制度として誕生したのです。その中で法人格を持つものが合同会社(2006年開始)、法人格を持たないものが有限責任事業組合です。つまり従来の「組合」という古い概念の範疇から完全に離脱したもので「組合」とは名ばかりの実は21世紀の新しい事業組織と言える物です。
それでは有限責任事業組合(以下LLP)について詳しく見てみましょう。
LLPは法人税が課税されない営利事業体
組合が負債を抱えても、組合員は出資金額以上が免責となる有限責任制が取られています。しかし、最大の利点は法人税が無税なことです。つまり、組合員である個人や法人へ直接課税される構成員課税(パススルー)と呼ばれる方法を取ります。
これを以下に説明します。
例えば組合が事業で300万円儲けたとします。すると組合員が3人なら100万円ずつ分配して配当します。もちろん話し合いで分配配分は自由に決められます。通常の会社ですとこの配当に税金がかかりますが、LLPでは配当に税金がかかりません。よって組合の儲けが組合をパススルーして組合員の所に直接来ます。そこで各組合員は個人の確定申告で税金を払います。これが構成員課税制度です。このため法人税で徴税され、個人所得で徴税される二重課税を防止できます。そのかわり組合員は組合からの分配金の表を提出する必要があります。
LLP事業例
それではLLPで展開できそうな代表的事業例を簡単に列挙してみます。
@共同事業
資金、資材、技能、やる気等を持つ人々が何人か集まり特定の事業を始めることです。従来有限会社や株式会社で行われていた事業です。LLPでは一番多くなる形態になると思われます。組合名義で事務所を借りたり銀行口座を開設したり自動車や機械を購入出来ますし、資金があれば土地や建物も保有できます。(各組合員による共有登記し、且つ分割禁止の登記) 組合で従業員、アルバイトを雇い、社会保険にも加入できます。会社で言うところの取締役兼株主が組合員に相当し、組合員以外の人々は従業員となります。
方式としては親しい友人3人〜5人程度を組合員とし、数万円〜数十万円程度を出資してLLPを立ち上げる方法です。
将来大規模な資金調達や東証への上場を予定している夢があるなら株式会社が良いのですが、小規模でやって行くつもりならLLPが最適です。
事業例として農畜産業、建設業、出版印刷業、各種製造業、商品販売業、、娯楽サービス業、情報サービス業、教育業等膨大な事業が考えられます。
今まで新規事業を子会社でやっていたものをLLPで行うのも良い方法です。当初は赤字でしょうから赤字は親会社で吸い取って節税し、儲かってきたらLLPを解散して資産を出資して株式会社にすれば大丈夫です。
A簡易FC(フランチャイズ)事業
コーヒーやハンバーガー、コンビニ等はフランチャイズ契約により同一店舗名とデザインで販路を広げています。しかし、大手企業ではなくても、中小のお店でもLLPで簡易FC事業ができます。例えば、鈴木不動産(株)という会社が「ベストハウス」というサービス名で事業展開しているとします。その会社の渡邊さんが会社を辞めて渡邊不動産(株)の社長となり、千葉の船橋で独立した時、鈴木不動産(株)と渡邊不動産(株)の2社でLLPベストハウスを登記すれば2社はFC系列となり、同じデザインの店舗で「ベストハウス船橋店」を始めることができます。傘下会社を増やせば事業は拡大して行きます。
Bスピンオフベンチャー
企業内で開発研究を行っている人が、別の会社の研究員とLLPを立ち上げてベンチャー事業を行ったり、自分の会社とLLPを組んで別事業を行ったりします。会社を辞める必要が無く、研究費や開発費を会社で出してもらうことができます。
C準ファンド
組合員が金銭を出資して資産になるような物を購入し、そこから生み出される利益(キャピタル又はインカム)を組合員が分け合うというものです。組合員全員が有限責任となり、出資額範囲でしか負債責任を負いません。LLP法では組合員全員が事業に参加し(共同事業性)、出資のみの組合員の存在を認めていませんので組合員全員が出資者でありかつ運営者である必要があります。もしこの条件を満たさない場合はLLPは民法組合とみなされます。仮に専門性が求められるような資産運用の必要性が有るときは、専門家の組合員を営業員とし、出資者との間で匿名組合契約を締結することでファンドとしての運営を行うこともできます。投資事業組合は運営者が無限責任ですので安全性はこちらが高いといえます。
LLPの設立手順
@ 組合員が、LLP契約(有限責任事業組合契約)を締結する。
A 契約に記載した出資金を全額払い込む(現物出資の場合はその全部の給付をする)。
B 事務所の所在場所を管轄する法務局に組合契約の効力発生登記をする。 この際、組合員同士の契約の効力は@Aを完了した段階で発生し、組合員の有限責任制等に関する第三者への対抗力はBの段階で発生することとなります。
出資金の下限は1円ですが、組合員は最低2人以上必要ですので実質最低出資金合計額は2円となります。出資は現金だけではなく、現物資産(動産、不動産、有価証券等)の出資や知的財産権の出資も認められています。出資金は設立時に全額払い込む義務があります。払い込んだ日が組合設立日になります
LLPの業務執行方法
通常株式会社では取締役会があり、役員が主たる業務を行います。またNPO法人では多くの会員を代表して理事がおり、さらに理事会により代表理事たる理事長がトップに立ちます。しかしLLPは組合員全員が業務執行役員です。そして原則として組合員全員で業務執行の決定を行うように法定されています。よって「オレは出資はするが手は出さない」といった態度は禁止されています。LLPの営業に関する行為や、その契約締結のための交渉、あるいは、具体的な研究開発計画の策定・設計、帳簿の記入、商品の管理、使用人の指揮・監督等、組合の事業の運営上重要な部分は全て組合員の総意に基づいて決定されます。確かに全員参加は面倒ですが、LLPを脱税の隠れ蓑にする人々が出てくることを防止するためこの部分は重要です。
但し組合員が多数に昇る場合は何か行うたびに全組合員がぞろぞろ出てくるというのも非効率です。よって組合契約内容に役員に相当する組合員を決め、その方達の提案を全組合員に諮って決定する方法もあります。しかし、この場合でも組合の業務の一部を全組合員の委託で一部の組合員が行っているにすぎないので、委任権のない組合員が勝手に行う対外的組合業務は善意の第三者への法律行為となり、責任が全ての組合員に及びますので注意しましょう。事業が拡大しましたら従たる事務所(支店)を設置しましょう。設置は何カ所でも可能です。
LLPは法人ではないため、株式会社や特定非営利活動法人等の他の法人へは変更できません。一度LLPを完全に解散してから新たに他の法人を設立する必要があります。また法人では無いために税務上認められる経費の算入も不可能です。あくまで独立自営業者の集合体と考えてください。
もし、今現在株式、有限等の会社を経営していて、事業内容をそのままに、役員を組合員に横滑りさせる形でLLPを設立する場合は最初に法人を解散してから改めてLLPを新設する方法を取ります。
LLPの解散についてはあらかじめ組合契約に詳細を組み込んでおくことをお勧めします。解散手順は会社と同様であり、清算人の決定、資産の分配の順です。法務局においては解散の登記、清算人の登記をして、清算手続が完了した後に、清算結了の登記をする必要があります。規定がない場合は有限責任事業組合契約に関する法律の通りになります。
登記の時に組合の存続期間を一応5年間等の年月で決めますが、この期間を経過しても組合は存続します。ほって置けば永遠に存続しますので、解散したい場合はきちんと解散登記を行う必要があります。
LLPの従業員
LLPは立派な組合ですので、従業員を雇うことができます。労働保険(労災保険・失業保険)や社会保険(健康保険・厚生年金)に入ることが可能です。
職員は何人でも雇用できます。
万が一職員が業務上第三者に損害を与えた場合(業務運転中の事故等)でも、監督者である組合員に重大な過失が無ければ、債務は組合財産から支払えば良く、組合員は個人財産から支払う義務はありません。この点はやはり有限責任が効いてきます。
組合員は従業員になれません。
LLPの消費税
消費税に関してですが、LLPも消費税を預かることができます。このLLPの消費税は、各組合員が分配割合に応じて個別に納付することになります。例えば3人で等分配の配当を決めているLLPであれば、お客さまから受け取った消費税が300万円であれば、各組合員は個別に自分の申告に含めて消費税を100万円ずつ税務署に納付することになります。ところが、利益分配された個人や法人が消費税の免税事業者であれば、本来その方達は消費税の納税義務はありません。しかし、共同事業の場合、以下の条文のように連帯納税義務があるので注意が必要です。
「共有物、共同事業又は当該事業に属する財産に係る国税は、その納税者が連帯して納付する義務を負う。」
国税通則法9条により、LLP(共同事業)の事業に係る消費税については、連帯して納付する義務を負うことになります。
「第15条 組合員は、その出資の価額を限度として、組合の債務を弁済する責任を負う」
このような条文がLLP法の15条にありますが、消費税は組合の債務ではなく、各組合員の債務となりますので、有限責任ではありません。よってある組合員がLLPの消費税を納付できなければ、別の組合員が納付をしなければならなくなります。もちろん代わりに納付した組合員は、消費税を納付しなかった組合員に請求することが可能です。先ほどの例で言えば2人が納税義務者で、残り1人が免税事業者であるLLPならば2人で消費税300万円を納付し、100万円分を1人に請求します。
もっとも最初から消費税分は利益ではありませんので組合員に配当しないでLLP内にストックしておくのが賢明でしょう。このようにしておけば各組合員は申告の時に組合口座から消費税を引き出して申告すれば済みますので簡単です。
銀行の払込保管証明書の廃止
従来ですと資本金を確かに払い込んだことを証明するために銀行に高い手数料を払い、払込金保管証明書を発行してもらっていました。ところが今後は銀行通帳のコピーで良いということになりました。しかし、簡単になったといって自分の貯金通帳のコピーをただ法務局に持って行っても却下されてしまいます。それは払込の方法や通帳への印字の仕方、コピーしなければならない部分に厳しい条件があり、しかも通帳のコピーに保管証明書という表紙を付けてホチキスで留め、割り印を押す必要もあるなどややこしいところが多々あります。